自然と向き合い続けるドイツのシェフ ― Nils Henkelとは

自然と向き合い続けるドイツのシェフ ― Nils Henkelとは
Nils Henkel ニルス・ヘンケルは、ドイツを代表するガストロノミーシェフの一人である。
ドイツとベルギー、オランダの国境近くに位置する城館ホテル、Schloss Lerbach シュロス・レルバッハでDieter Müller ディーター・ミュラーに師事した。
Dieter Müller ディーター・ミュラーは1980年代からドイツ料理界を牽引したシェフの一人であり、Restaurant Dieter Müllerは1998年から2011年までミシュラン三ツ星を維持した。
当時のドイツ国内でも最高峰のレストランとして広く知られ、多くの料理人がその厨房から巣立っている。

Nils Henkelはその後継者として2008年にレストランを引き継ぎ、その年にはGault&Millauの「Chef of the Year」に選出された。
以降もドイツ料理における自然や地域性を重視した独自のスタイルを築き、現代ドイツガストロノミーを代表する存在として知られている。
Schloss LerbachからBootshausへ
Schloss Lerbach時代のNils Henkelの料理は、地域の生産者との結び付きや季節感を重視しながらも、非常に洗練された盛り付けで知られていた。
その後、ドイツ西部のリゾートホテル、Papa Rhein Hotel内のBootshausへ活動の場を移してからも、その哲学は変わらない。
野菜、ハーブ、穀物、魚介、野生植物などを用いながら、素材そのものの個性を最大限に引き出す料理を追求している。


Flora ― 植物から生まれるガストロノミー
Henkelの名を世界の料理人に強く印象付けたのが『Flora』である。
この作品では肉や魚を中心に据えるのではなく、野菜やハーブ、穀物を主役として扱う。
近年では植物性ガストロノミーという言葉も一般的になったが、Henkelはその流れが広く語られる以前から、自然と季節を軸にした料理を探求していた。
料理はどれも驚くほど繊細でありながら力強く、一皿ごとにドイツの風景や土地の記憶を感じさせる。

Fauna ― 海と陸への視点
2023年に発表された『Fauna』では、視点を植物から海と陸の食材へと広げている。
ただし一般的な魚料理や肉料理のレシピ集ではない。
Henkelらしく、主役となる食材の個性を尊重しながら、持続可能性や地域性への視点も盛り込まれている。
掲載されている75の料理と200以上の基本レシピは、彼が長年培ってきた技術と哲学を集約したものと言えるだろう。
また、海をテーマにした内容に合わせて海藻を配合した特別な紙を使用するなど、本そのものの造本にも強いこだわりが見られる。


Schloss Lerbachで培われた技術、Floraに込められた植物へのまなざし、そしてFaunaへと広がる自然への探求。
その歩みをたどることで、Nils Henkelが現代ドイツ料理界において独自の位置を築いてきた理由が見えてくる。

彼の料理哲学や自然との向き合い方は、これらの書籍にも色濃く反映されている。
関連書籍
- Flora
- Fauna
- Pure Nature
